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月刊丸/アフロ

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ロシアによるウクライナ侵攻後の国際情勢と日本

―「ミドルパワー外交」の視角から ―

添谷 芳秀

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1989年の冷戦終結後、国際政治は長い過渡期にあった。2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、そこに大きな衝撃を与え、国際政治の行方を大きく左右する出来事となった。それは、アジアにおける中国の戦略にも重要な影響を与えるだろう。本稿は、ウクライナ侵攻をめぐるロシアと中国の動向が、国際政治と欧州およびアジアの安全保障にもたらす影響について考察し、米国との関係を軸に協力を模索する日本を含めた先進民主主義国の役割について考えようとするものである。その際、私たちの位置づけと役割を「ミドルパワー外交」や「ミドルパワー協力」という視点からみようと思う。

ロシアによるウクライナ侵攻は、本質的には帝国主義的な行動とみることができる。他方、アジアにおいて同様の衝動を募らせているのが、中国である。そして、欧州でもアジアにおいても、ロシアと中国による挑戦に対して、先頭に立っているのが米国である。すなわち、ウクライナ侵攻は、米中ロの「三大国」が国際秩序の対立構造の中核にいることを、改めて明瞭に浮き彫りにした。そこで私たちは、「三大国」間関係の一角に食い込むというよりは、米国との関係を軸にして大国間の対立構造の下での協力を模索している。そのイメージは、まさに「ミドルパワー協力」と呼ぶにふさわしいだろう。

この視点は、とりわけ日本の外交を考える際に重要になるように思う。従来から、日本の保守層の外交論や安全保障論には、主体性や自助努力を強調するあまり、あたかも日本が単独で戦略を持てるかのような論調が少なくなかった。とりわけウクライナ侵攻後は、「ウクライナの教訓」を日本の安全や防衛に直結させる、勇ましい議論が目立つ。

もちろん、そうした主張がそのまま日本の外交政策を形作るわけではない。しかし、時の政府にとっては無視できない国内要因であり、その結果日本の政策の実像が分かり難くなることがある。筆者は、戦後の日本外交はそうした構造的な問題を抱えながら、実質的には「ミドルパワー外交」の枠に収まってきたという考察を続けてきた。本稿の議論は、ウクライナ侵攻後の日本外交の実態とあるべき姿を考える際にも、この分析視角は有効であるという確信に基づいている。まずは、その視点の確認から考察をはじめよう。

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