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月刊丸/アフロ

単行本

日本の海洋安全保障政策

―FOIP、QUAD、東シナ海、 南シナ海―

小谷 哲男

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四方を海に囲まれ、長い海岸線と多くの島嶼を有する一方、資源に乏しい貿易立国である日本にとって、海洋安全保障は、主権と領土の一体性を維持するためにも、海上交通路を確保するためにも、大きな課題である。サンフランシスコ平和条約の発効にともなって国際社会に復帰した日本は、事実上の軍事力を持たず、海洋安全保障については米国に依存せざるを得なかった。1970年代以降になると、ウラジオストックを拠点に増強を続けるソ連極東艦隊の活動を制約するため、日本は対馬海峡、津軽海峡、そして宗谷海峡を封鎖する能力の保有を目指すようになった。同時に、日本は「1,000海里シーレー ン防衛」の名の下で、南西諸島および小笠原諸島周辺の海域において警戒監視能力を高め、米軍の来援確保に努めた。日本が海峡封鎖と日本列島周辺の警戒監視に取り組んだことで、ソ連艦隊を事実上日本海に封じ込めることに成功した。

しかし、冷戦が終結すると、ソ連に代わって中国の海洋進出が日本の海洋安全保障上の懸念として浮上するようになった。中国は1980年代に第一列島線および第二列島線までの近海防衛戦略を打ち立て、実際に2008年頃から人民解放軍が第一列 島線周辺での活動を活発化させ、2020年までには第二列島線を越えて西太平洋での活動を常態化させるようになった。人民解放軍は東シナ海では軍事訓練や演習、情報収集を行い、南シナ海では大規模な人工島の埋立てと軍事化を進め、インド洋にも海賊対処活動のため潜水艦を含めた艦船の派遣を行っている。これらは有事の際に米軍の介入を阻止しつつ、海上交通路を維持するためとみられ、中国のミサイル戦力の増強とあいまって、地域の軍事バランスを大きく変化させている。 また、中国は政府公船や漁船を使って、尖閣諸島や南沙諸島などで国際法と相容れない現状変更行動を継続しており、平時でも有事でもないグレーゾーンの事態が常態化している。さらに、2016年以降に中国は台湾の民進党政権に対して圧力を強めるようになり、台湾周辺でも軍事活動を展開するようになった。台湾で有事が発生すれば、日本が巻き込まれるとの懸念も高まっている。

このような中国の海洋進出は、日本の領域防衛と海上交通路の安全確保の観点から大きな課題となっている。また、中国の独自の海洋権益の主張は、海洋法秩序に対する深刻な挑戦でもある。このため、日本政府は第一列島線の防衛態勢を整えるとともに、海洋法秩序の維持を目的として「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想や、日米豪印戦略対話(QUAD)を押し進めるようになった。以下では、列島線防衛と海洋法秩序の維持を柱とする日本の海洋安全保障政策について概観するとともに、現状と課題について考察する。

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