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イベントレポート

デジタル・アジア

即応的な貿易政策の策定

アジアにおけるデジタル経済の急激な成長に伴い、多くの企業や消費者がオンラインに移行している。デジタルエコシステム、地域プラットフォーム、5G技術、デジタル金融サービスおよびデジタル決済は、アジアの「新世代の貿易協定」で主要な部分を占める重要なトレンドである。中でも、環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定、デジタル経済パートナーシップ協定(DEPA)などの貿易協定は、上記のような重要な問題に取り組むための多国間枠組みを構築しようとしている。しかし、アジア各国政府はこのようなトレンドの管理・規制に依然として苦労しており、その結果、一貫性のないデータポリシー、デジタル課税、消費者保護ルールなど、論争の的となる問題がしばしば発生している。

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このような背景の下、コンラート・アデナウアー・シュティフトゥング(KAS)のアジア経済政策プログラム(SOPAS)が主催するオンライン会議「デジタル・アジア:即応的な貿易政策の策定」が、日本時間2021年9月9日(木)17:00~18:30(ヨーロッパ中部標準時10:00~11:30)に開催された。KASのアジア太平洋チーム責任者であるピーター・ヘフェレ博士が開会を告げた。ヘフェレ博士は冒頭挨拶で、各国が貿易や国内商取引、産業や労働、地域協定などにおけるデジタル化のさまざまな側面に適応しようとしていることを強調した。パンデミックはデジタル化の流れを加速させており、そのため各国は健全なデジタルエコシステム、包括的な地域プラットフォーム、機能的なデジタル金融サービス、そしてデジタル化を取り巻く現在の問題に共同で取り組むための枠組みを提供する新世代の貿易協定をいかにして構築するかを検討しなければならない。しかし、各国政府はいまだに、データ統合、課税、消費者保護などの問題に対処するための一貫した政策を見つけられずにいる。今回の会議の目的は、アジアにおけるデジタル化および貿易の問題と、それが欧州に及ぼす影響を分析・議論することにある。

 

基調講演は欧州議会議員のステファン・ベルガー博士が務めた。ベルガー博士は基調講演で、キャッシュレスの即時決済・送金の利用急増、ブロックチェーン、不動産や所有権といった文化的所産の性質の変容など、いくつかのトレンドについて言及した。また、デジタル貿易に関する欧州の法規制アプローチを紹介するとともに、暗号資産の規制枠組みの基礎となる暗号資産市場規制(MiCA)に関する欧州報告書の草案作成について詳細に論じた。ベルガー博士は、消費者保護、反マネーロンダリング、テロ防止に関する明確なルールと内部統制メカニズムを導入する必要性を強調した。最後に、イノベーションのための理想的な環境を確保するには、過剰規制につながらない堅固な枠組みが必要であることを強調して講演を終えた。

 

パネルディスカッションのモデレーターは、TradeWorthy社の主任顧問であるスヴェン・カレボー氏が務めた。パネルには、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)のシニアエコノミストであるルロング・チェン博士と、駐シンガポール欧州連合(EU)代表部の経済・貿易セクション責任者であるユスティナ・ラシク氏が参加した。残念ながら、3人目のパネリストであるアジア貿易センターのエグゼクティブディレクター、デボラ・エルムズ博士は参加が叶わなかった。パネリストへの質問は2回に分けて行われ、1回目ではアジア太平洋地域とEUの現状について説明と議論がなされた。2回目の質問では、デジタル貿易の包括性、各国政府の準備状況、官民対話、能力格差への対処方法などが議論された。

 

以下に、パネルディスカッションにおける主要な点をいくつか示す。

データの自由な流れは信頼に基づくべきであり、信頼の構築には貿易をさらに円滑化する政策が必要である。

デジタル化されたツールやサービスの利用は市場の敷居を下げる傾向があり、取引コストを引き下げ、外国市場を開拓する手段を企業に提供することで、企業はより多くの市場に参入できるようになる。テクノロジーは情報の拡散を促進するが、煩雑な関税手続き、不十分な情報や複雑なライセンス手続き、貧弱な知的財産権保護といった政策上の制約は、デジタル貿易のメリットを減じたり、打ち消したりしかねない。したがって、関税措置と非関税措置をともに撤廃し、自由化を推進すべきである。

貿易協定の中には、絶えず進化する貿易環境に対応するには時代遅れの条項を持つものもある。協定の締結は交渉に時間がかかることから、新たな自由貿易協定(FTA)を交渉する代わりに、すでに締結されているFTAを補強することが現実的な解決策となる。その際には、従来のFTAには含まれていない条項を盛り込むとともに、モジュール化した内容、特に各国間の協力に関する内容を取り入れるべきである。

各国の政策体制は十分に整備されていない。ASEAN(東南アジア諸国連合)はコンセンサスに達しているものの、データとは何かという一義的な定義はなく、デジタル化のペースにも偏りがある。協定は不完全であり、データ安全性の規制や確保は個々の国に委ねられている。

規制慣行を単独で議論することはできない。各国が行っていることとその理由を理解するために、情報の共有を奨励すべきである。これにより、各国間の知識共有も改善するだろう。

 

パネルディスカッション終了後に寄せられた質問のテーマは、(1)商品とサービスの性質の変化(物理的なものからデジタルへ)とそれが世界貿易機関(WTO)政府調達協定に及ぼす影響、(2)アジアにおいて地域デジタル協定を策定し、デジタル経済の成果を活用する上でのデジタル企業の役割、(3)EUの一般データ保護規則(GDPR)、(4)クラウドのようなデジタル商品・サービスの原産地規則の決定、などがあった。

 

KAS日本事務所代表兼アジア経済政策プログラム(SOPAS)代表のラベア・ブラウアーが閉会の辞を述べた。ブラウアー代表は、デジタル貿易に関する規制を策定する際には自由と統制の間で健全なバランスをとる必要があることを強調した。国内法はあらゆる種類のビジネスに恩恵をもたらす共通の基準を規定する必要があり、ルール策定にあたって取り残されるビジネスがあってはならない。EUの取り組みは、欧州以外の地域でデジタルパートナーシップを構築するための青写真として利用することができる。ブラウアー代表は、議論されたテーマは単に経済・金融規制の問題にとどまらず、特に基準の適応性については各国がコンセンサスを見出す必要があると述べて会議を締めくくった。また、今回の会議は現在進行中の議論に貢献し、一層の協力を呼びかけるものであると付け加えた。デジタルトランスフォーメーションをさまざまな社会的・文化的パターンにどうすれば組み込めるかについてのさらなる研究も必要である。

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担当者

ペレズ・ クリスティタ・マリー

Cristita Marie Perez KAS

シニアプログラムマネージャー、アジア経済政策プログラム (SOPAS)

cristita.perez@kas.de +81 3 6426 5041

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